広島高等裁判所 昭和44年(ラ)38号 決定 1969年12月06日
抗告人 日商岩井株式会社
右代表者代表取締役 貞広寿一
右代理人弁護士 尾崎陞
同 鍛治利秀
抗告人 (旧商号丸喜商事株式会社) 丸喜船舶株式会社
右代表者代表取締役 宮崎時子
右代理人弁護士 吉田訓康
同 太田稔
同 鬼追明夫
同 辛島宏
主文
原決定を取り消す。
理由
本件各抗告人の抗告申立の趣旨と理由は、各抗告状記載のとおりである。
競売法による競売において、仮登記権利者は、本登記抵当権者と異なり、直ちに抵当権者としての配当を受けえない状態にあることはいうまでもないが、後日、本登記を受けることにより、仮登記の順位において対抗力を取得しうる可能性はあるわけである。すでに登記のない抵当権の実行による競売さえ許されている現行制度(昭和二五年一〇月二四日最高裁判所第三小法廷判決、最高裁民集四巻一〇号四八八頁参照)のもとでは、いったん抵当権設定の仮登記をした者がその本登記をなす前に目的不動産について競売が行われた結果、たとえ、右仮登記が抹消されるべきものであるとしても、なお、仮登記抵当権者は、本登記をするのに必要な条件を備えるに至ったとき、本登記をすれば第三者に対抗し得たはずの抵当権及びその順位に基づいて競売代金中より配当を受けることができるものと解すべきである。
もとより、本登記ができる場合には、仮登記の申請を受理すべきではないが、いったん受理された以上、その仮登記は、当然には無効と解すべきものではない。したがって、抵当権設定の仮登記がなされた当時、すでに仮登記権利者において本登記をなし得た場合にも、前記と同様に、競売代金中より配当を受けることができるものと解するのを相当とする。
本件について、競売裁判所が、当初、昭和二年五月二六日および昭和六年一月一四日の大審院判決の趣旨にしたがって競落代金を配当することとして配当表を作成し、仮登記抵当権者たる丸喜商事株式会社に対する配当金額を供託したのは相当である。しかるに、以上と異なる見解に基づいて、さきに定めた配当表を変更した原決定は、すでに、この点において違法であるというべく、取消を免れない。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 浜田治 村岡二郎)
<以下省略>